動物愛護関連の情報と、独学ピアノの記録。

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灰色の翼持つ美しき者たち 1章

灰色の翼持つ美しきものたち   

                                                                             原案・執筆 蒼鳥 庵

 

1章 出会い

 

いつからだろう、私は湖のほとりに住んでいた。私には「過去」の記憶がなかった。気が付いたとき、私は小さな家の中にいたのだが、そこには誰もいなかった。私は外に出てみることにした。
家から出ると、そこは黄緑色の平原が広がっていた。私は、柔らかい草を踏みしめながら歩きはじめる。歩くにつれ、木の葉のさわさわという風で擦れ合うような音が聞こえ出す。どうやら、この周囲には森があるようだった。
私はもう少し歩いた。そこで眩しい光を感じる。何本か木の立ち並ぶ中、広く開けたそこは湖だった。
ひっそりとたたずんだ湖はとても澄んでいて、透明感に満ちているように見えたが、まるで鏡のようで覗き込むと私の姿を鮮明に映し出す。私には記憶がなく、周囲には誰もいなかったから、私の姿を自分で認識するためのものは、この水面の鏡だけだった。

その水面の鏡で見る私の姿は、白い体に白い羽だった。いや、限りなく白に近い灰色の羽といったところか。光を浴びると今より輝くのだから。だけどなぜだろう、羽が見えるはずなのに私は飛べない。飛べる気がするから、そよぐ風を羽に受け走ってみる。
だけどやっぱり飛べない。
途方にくれて草の上に寝転び、空を見上げる。空は遠い、青く澄んでとても遠い。なのになぜかなつかしい思いに包まれる。光り輝く、どこか遠くで見た記憶と想いに。

遠い遠い過去の記憶。私は風を自由にあやつり、あの光の中にいた。
つかもうとすれば消えてしまうような遠い遠い記憶。
そんな記憶をたどり、記憶に憧れ、私はいつかまたあんなふうに空を飛びたいと思った。もっと強い風が吹けば、もっともっとはやく走れれば。

時々、強い風が吹けば、羽が揺られ少しだけ体が地面から舞い上がる気がする。だけどそれはつかの間の夢で、気が付けばいつも、また足は地の上にあった。やわらかい草を踏みしめたまま。
それでも私は毎日、風を待ち続け走り続けた。

 

そんなある日のことだった。その日はぐったり疲れていた。
すっかり日も暮れた頃、私は家の中にいたが、とても強い風で小さな家に振動が伝わるのを感じ目が覚めた。なんだか胸騒ぎを覚えた私は、外へと出てみることにした。
外に出たとたん、強烈な風が私を叩きつけるかのように吹き、私の背の羽がしなる。それと同時に私は頭上に何やら暗い影を感じ、空を見上げた。

そこには、黒い大きな鳥とも獣とも見分けがつかないようなものがいた。
私は、「それ」を見たとたんに、ぞっとするようなまがまがしさと寒気を感じるが、同時にひきつけられるものを感じ、じっと「それ」を見つめ続けずにはいられなかった。「それ」は、私の頭上めがけて近づいてくる。そして、「それ」が近づくほどに、まがまがしい雰囲気も強く感じられてきた。
そして「それ」がいかに異様な姿をしているかも目のあたりにした。「それ」の頭から生えているヤギのような角はとがっていて、鋭い赤い目をしていた。しかし、その羽は巨大で見事に風を操っているようで、ひとつ羽ばたけば、周りの草木まで震撼させるかのようであった。
「それ」は空の全てを謳歌するかのように一声鳴いた。それは、風を引き裂くような威圧感ある声だったが、同時に全身の寒気をもよおすようなぞっとする響きだった。その声と同時に、「それ」の口の中がちらりと見えた。それはまるで今血を飲んだかのように真っ赤だった。

私は思わす目をそらしたくなったが、何故だろう、私は「それ」を見ずにはいられなかった。
「それ」は、醜い獣のようでありながらも、巨大な羽を持っていて、私が時間をかけても飛べなかった空をさもあたりまえであるかのように飛んでいたかと思うと、自由に大気を操り舞い降りてくるのだから。
私は心の中に黒いものが湧き上がってくるのを感じた。”それ”は次第に激しく燃え出すかのようで、私は左手で胸を押さえた。思わず胸苦しさを感じるほどだったからだ。

そんな私の前に、「それ」はゆっくりと舞い降りてきた。「それ」の足が今にも地面に着こうとするその時、私の口からは自然に口をついて疑問が出てきていた。
「誰?」

近くで見る「それ」の大きな黒い羽は、重量感があって、大気を切り裂くのさえたやすそうに見えた。そして体には、まるで獣のような毛が生え、足は鷲のような鋭い爪をしているのがはっきりと見て取れた。
「それ」は、私の問いに対し、表情ひとつ変えずに答える。
「人にものを尋ねるときは、自分から名乗るのが礼儀だろう。」
私はとまどった。私は私の名など知らなかったのだから。
そんな私を見た「それ」は、ニヤリと笑うと威圧感と響きのある声で言った。
「ハハハ、お前は何も知らないのだな。」
「それ」は嘲笑するように笑うと、続けた。
「教えてやろう。お前は天界を追われた堕天使だ。光り輝く楽園から追放されたのだよ。天に帰ることなど出来はしないし、無論飛ぶことさえ不可能だ。哀れな堕天使。」
私は、「それ」のどすりと圧するような口調から繰り出される言葉の意味を飲み込むことが出来なかった。
「何を言っているのです?あなたは誰なんです?」
「まあ、そうあせるな。私が正体を名乗れば、お前にも実感できるはずだ。」
そういうと「それ」は、一息ついてこう言った。

「……私の名は、サタナエル。そして私はお前の一部でもある。」
私は、呆然と立ち尽くしていた。やはり、何のことだかさっぱり分からなかったのだから。そんな私を尻目に、サタナエルは見下すような目線をして続けた。
「フフフ、まだ分からないのか。ならば教えてやろう。お前は私が空を舞う姿を見て、胸のうちに黒いものが湧き上がってこなかったか?それは私と同じものをお前が共有している証拠だ。その胸のうちの黒いものこそ、私の姿の一部。」
私はぞっとした。この羽持つ獣に出会ってからずっと、胸の内にぬらぬらとした黒いものが溜まっていくような感じを覚えていたのは事実だったからだった。

「少し理解してきたようだな。その胸の内の黒いものと、この私の姿、どうだ?似ているであろう?まるで兄弟のようであろう?お前は私の一部であり、私はお前の一部なのだから。だけど大きな違いがある。お前は私のように飛べはしないのだ。そして、そんなお前は飛びたいとずっと願っていた。地を這いずり回り、みじめに願っていた。どうだ?お前、楽に飛びたくはないか?そんな方法があるのなら知りたくはないか?」

私は、ためらいながらも正直に答えた。もう、胸のうちは見透かされていたのだから、これ以上隠すこともどうすることも無意味だと思ったからだった。
「そうです。私はずっと飛びたいと願ってきました。記憶にある時期はずっと願ってきました。そしてもちろん楽に飛べたらどんなにいいだろうかと思うようになりました。」

「フフフ、そうだろうそうだろう。」
それは、満足げに頷きながら、続ける。
「そこでだ、提案がある。どうだ?私と取引しないか?」
「取引?」
私はいぶかしげに尋ねた。

「今のお前であれば、それを受け入れるであろう。そう思ってここを訪れたのだ。なに、方法は簡単だ。あの森に眠るある剣で胸をつくのだ。」

そう言って「それ」は森のある方角を指差す。

「それで胸をつけば、少しの苦しみの後に私の持つような雄大な翼が生えてくるであろう。そしてお前は空を飛べる。楽にな。今のままではどうせ飛べないお前なのだから、その痛みは一瞬。飛べない苦しみは未来永劫続くのだ。それに比べるとどうでもいいような痛みであろう?それさえ乗り越えれば、お前も私と同じように空を飛べるようになるのだぞ。」

 

(続く)

 

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