動物愛護関連の情報と、独学ピアノの記録。

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小説・エリートサラリーマン第3回(全5回)

 

彼は、自分の体が汗でぐっしょり濡れていることに気が付いた。辺りを見回す。夢か。見回すと同時にカーテンの向こうが明るいのに気が付く。もう朝なのか?まずい、寝過ごしたか?枕元にセットしていたはずの目覚まし時計に目をやろうとしたが、枕元に時計はなかった。床を見回すと、布団から少し離れたところにあった。寝ている間に弾き飛ばしたのだろう。起き上がろうとするが体が動かない。日々の疲れが溜まっているのだろう。彼はやっとのことではいあがるように起き上がると、はじき飛ばした目覚ましを拾って見る。5時30分。なんだ、まだ早い時間だ。彼はほっとすると同時に、外がカーテン越しといえどやけに明るいことが気になった。 彼は立ち上がると、カーテンとレースのカーテンを同時に開き、窓を開けた。外はグレー色で薄闇といったところだった。空を見上げるとまだ星が薄く瞬いていた。明るさの正体はこれだったのだろうか。彼は空を見上げた。
「小さい頃に夢見た星」広義はつぶやいた。俺が憧れていた星はどれだったかなあ、もう長いこと空なんか見ていない。薄闇がだんだん明るくなり、星が消えていく……
1つ、2つ、また1つ、2つ。

 太陽光がビル街の向こうから1筋の光を飛ばす。1つ、2つ、3つ……星は消えていく。広義の胃がキリッと痛んだ。広義は思わずみぞおちの辺りを押さえる。太陽の光が一段と眩しくなっていく。
「朝だ、仕事だ。」
午前6時、彼は切り替わる。戦闘モードに。それと同時に、彼の心は眠りにつくのだった。

彼は窓を閉め、朝食をとろうと台所に向かう。コーヒーを入れるために、ドリッパーを棚から取り出したところで、また胃がキリリと痛んだ。彼は思わずうずくまる。
「今日は朝食はやめておこう。胃薬を飲んで出社するか。」
総務課から引き受けた仕事の件もある。今日は体調が悪くても出社しなければならない。彼に出社しなくてもよい日などないに等しいのだが、彼はそう思った。
 胃の痛みを感じながらも、なんとかスーツに着替え、玄関の鏡でいつものように全身をチェックする。服の色あわせ、髪型、そして表情……そこには、いつもより顔色の悪い疲れた表情が映っていた。しかし、彼はこうつぶやいた。
「出社しなければならない。自分が行かないと仕事がはかどらないんだ。」
それは自分に言っているのか、会社のためを思って言っているのか分からない独り言だった。
 革靴を履き、玄関を出て、車に乗り込む。彼は、ときおり胃を抑えながら車を運転した。並木道のある2斜線の郊外の道路から、ビル街の4斜線の道路に入る。会社に着く頃にはだいぶ痛みは落ち着いたようだった。薬が効いてきたのかと、彼はひとまず安心した。
 社内に入り、エレベーターを使って、廊下を歩き、3階の彼の課の扉を開ける。また胃がちくりとしたが、彼はそれを人に悟られることはなかった。いつもの笑顔、いつもの振る舞い。彼は文字通り「完璧」なのだから。

自分の席に着くと早速、昨日総務課から受け取った書類に目を通す。その書類の内容は、彼の既知の部分ではあったが、意外な計算ミスを発見したために訂正に時間がかかり、また提出が遅れることになってしまった。彼は頭の中で、今日のノルマにかかる時間をはじき出した。明日の準備込みで今日は夜の10時になるだろう。しかし、1つ何かあると重なるもので、今度は入社3年目の受注係をやっている課の部下が、頼んでおいた商品の注文を忘れていたのである。広義は、凧の糸がプツンと切れるように、笑顔がきれた。
「なんでそんなミスをするんだ!?」
忘れたことそのものを、「忘れてはいけないから、これからは忘れないようにしなさいと」注意すればいいところが嫌味な口調になる。まるで、「俺だったらそんなミスはしないぞ」とでも言っているかのように。プツンときれたかのような冷たい口調の声に思わず、課の社員達が彼の方に首を動かす。彼は頭痛を感じ額を手で押さえた。しかし彼は、まわりのざわつきにはっと気付くと、いつもの優しい口調に戻り、
「とにかく、やりなおしておくように。」
と言った。彼は、自分を落ち着かせるために、飲み物でも買いに行こうと、席を立とうとした。彼は自分自身のマイナス感情に直面してはいられないのだった。しかしその時急に立ちくらみがしたのだ。彼は、意識を強く持ち、そのこともまた人に悟られないように、社員達の机の間を通り、課の出口のドアへと歩いていく。
 彼は、課の職員達がちらちらと彼を見る中、開け放たれている課のドアを出て、廊下にある自動販売機の前に行くと、ポケットから財布を取り出そうとした。その時だった。また、めまいがした。しかし、今度はめまいだけではすまなかった。体の力が抜けていくような感覚と同時に足元がぐらつく、彼は体を支えようと自動販売機に左手を伸ばした。しかし、足に力が入らない。彼はひざからがっくりと地面に着いたかと思うと、天井の模様が一周まわるのを見た。そして視界は真っ暗になり、彼はそのままばたりと横向きに倒れてしまった。書類を持って課に歩いてきていた女性社員が悲鳴をあげる。書類のバサバサと落ちる音。そして、それに気が付いた課の社員達のざわめく声。
「血が出てるぞ、救急車!」
そこまで聞いたところで彼の意識は薄れていった。

 

 

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