動物愛護関連の情報と、独学ピアノの記録。

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小説・エリートサラリーマン第1回(全5回)

【小説】  エリートサラリーマン

                                     原案・執筆 蒼鳥 庵

 

 

 小さな男の子が母親に手を引かれ、田園風景の広がる山並みを背に歩いていく。辺りは夕暮れ時。近くの公園で、友達とサッカーボールで遊んでいた男の子を母親が迎えに来た帰り道だった。家から少し離れた公園は、男の子の足で15分程かかる。秋も中盤に差しかかった最近では、日が暮れるのも早くなり、歩いている間にも空はどんどん薄暗くなりはじめた。いきなり男の子が立ち止まった。それに気付いた母親が彼のほうを見ると、彼は、薄暗い空の一点を指差していた。

「お母さん、あれ。」

母親が、男の子の指差す右手の人差し指の方向をたどると、そこには薄暗くなりかけた中、光り始めた1つの星があった。

「一番星よ。宵の明星っていうの。暗くなってくると一番最初に光る星なのよ。」

「綺麗だねー。」

 それから、母親に手を引かれた男の子は、家に着くまで何度も右の方角を振り返る。辺りが暗くなるにつれて、その星の輝きは増していく。

 家についてからも男の子は、夕食の時間まで、部屋の窓からその星を見つめていた。ますます暗くなってきた空に、1つ2つ他の星達が輝きだす。そして、どんどん星の数は増えていく。それでも、一番星は輝きを失うことなく、他に埋もれることなく、いっそう強く光っていく。男の子は、その星の姿に強く心を奪われ、ずっとそれを見つめ続けていた。

 

 

 夜が明けると、彼の戦いの一日が始まる。

 彼は家族の誰よりも早く起き、手早くコーヒーとロールパンという朝食を済ませると、シャワーを浴び、20分かけて髪をセットする。そして、ビシッとアイロンのかかったシャツに着替えると、ネクタイを締め、スーツのジャケットにほこりが付いていないかをチェックし、ジャケットをはおる。そして、最後に彼は、玄関の全身が映る鏡の前で、全体のバランスをチェックした。少し明るめの紺色のスーツに、薄いブルーのシャツ、少し濃い目のラベンダーカラーの地に紫の曲線の描かれたネクタイは彼の色白の肌を映えさせ、はつらつと見せる。秋も終盤に差し掛かる11月上旬だったが、風景に合わせて街行く人々のファッションも暗い色になっていく中、少しだけ明るめの色を選択したのも計算内だった。彼は、「よし」と小さくつぶやくと、綺麗に裏まで磨かれた革靴を履き、ビジネスバッグを持つと玄関を出た。
 玄関の前の車庫に停めてあるのが彼の車で、高級車を現す3ナンバー車だ。若くして高級車を購入できるか否かは、ステータスの1つである。それは、高収入を得ているという証の1つであるからだ。彼はローンを組み、多少の無理をしてこの車を買ったのだった。彼は、よくワックスが効いている傷1つない車のドアを開け乗り込むと、てきぱきとシートベルトを閉め、車のエンジンをかけた。

 

 彼の名は、松田広義。パソコンやOA機器の営業をやっているサラリーマンだ。一流企業の代名詞とも言え、社員数も1万人を超えるS社に勤めている彼は、もともと入社時のテストと面接を好成績でクリアし、企画課に所属していた。しかし、彼の印象の良さと、たくみな話術に目をつけた人事課部長が、高級と出世を条件に営業課に移動を命じたのだった。彼は営業で好成績を上げ、早くから営業課に所属していた同僚達に引けを取るどころか、追いつき、追い上げ、追い越して、期待された以上の結果を出した。このままいけば、現在35歳で課長補佐の彼は、来年か再来年には同僚の誰よりも早く課長になるのではないか、周りはそう噂した。

 

 彼の笑顔は「完璧」だった。

 まるで10年以上、100万回鏡の前で練習したかのような笑顔であった。誰が見ても不快感を感じることはない。初めて見たものは彼の魅惑の微笑みに目と心を奪われる。きらきらと輝く瞳に、人懐こさと優しさを載せたような笑顔。彼の上品な顔立ちが生かされた、清潔かつ有能そうな格好、それにあわせてその笑顔が提供されれば、初めて会った人にすら親近感を持たせるのであった。

 しかし、彼の顔は良く見ると笑いジワがある。何百回、何千回と「同じ表情」で笑うからだ。

 

 彼の話術もまた「完璧」だった。

 さわやかな口調であるが、知的さを感じさせる。そして時に優しく、それでも真面目なまなざしで繰り広げられる彼の営業トークは、よく計算しつくされているかのようだった。分かりやすい説明に加え、最近話題になっている、業界のものが気にせざるを得ない言葉が効果的に飛び出す。そんな話を聞きながら、彼の人懐こそうな笑顔を見ているうちに、その商品がとても価値のある商品のように思えてくる。彼自身が、「自分の売っている商品は価値がある」と思い込んでいるからでもある。そう思えることは、企業で働く人にとって得になることである。

 同じ課の社員や同僚の間では、営業マンらしく、どの商品が売れ、どの商品がこれから有望であるかという話題はよく出る。彼は、自分の売っている商品は他のどれよりも価値があると思い込んでいるから、自分の売ってきた商品の話をする。そして、商品を売ってきた自分の話を。

 

 彼の仕事ぶりも「完璧」だった。

 彼は、1日の仕事のノルマをこなすと、残業として早速明日の準備に取り掛かる。この準備によって彼は、次の日のノルマを、同じ課の営業マン達よりも1件多くこなすことが出来た。その残業中に友達から電話がかかってきた。しかし、彼は「仕事をしなければならない」ので断らざるを得なかった。

 

 完璧な「笑顔」と「話術」と「仕事ぶり」を持つ彼について、ある日、同僚達がこんな噂をしていた。その日のノルマをこなせず、事務処理を残業に持ち込んでいた同僚達の噂話である。それは課のドアを出たところの廊下で話されていたことであったが、ドアが少し開いていたのだ。その声は、丁度仕事を終え、課のドアから出ようとする彼の耳に聞こえてきたのだった。

「あいつ付き合い悪いんだよ。優しそうな笑顔の中に感情は見えないね。仕事はよくやっているし出来るやつだけど、態度がイヤミなんだよな。自分の自慢多いし、商品を売っているのか自分を売り込んでいるのか時々分からなくなるよ。」

それを聞いていたもう1人の同僚がぷっと吹き出した。

 

 広義は軽くまぶたを閉じた。目の前が白くスパークしたからだった。しかし、彼は「完璧」だ。そのまますっとドアを開け、課を出ると、廊下にいる同僚に軽く目をやり、いつもの笑顔で「おつかれ」と言って通り過ぎて行った。同僚達は一瞬たじろいだように目を泳がせたが、少し慌てた声で「おつかれ」と彼の背中に向かって返した。

 

COPYRIGHT(C) 2006 蒼鳥 庵 ALL rights reserved

 

コメント

全5回で完結です。ほとんど寝ずに全部書いてしまいました^^;
文芸サークル「ことのは」に投稿するための小説です。
小説にしたことにより、彼の人間性について言及することが出来たので、彼の内面の描写をすることが出来ました。ので、詩のときとはだいぶ読み手の受け取り方も変わってきそうです。
文芸サークルで、詩より小説向きのネタだと言われたこともきっかけです。しかし、こんなに一気に書けるとは思わなかったなあ。
おとといまで、「出来ない、わからん!」と部屋でイライラしてたんだが、書き出し始めたら一気に書けたのは、作品に対する思い入れの強さだったのかもしれません。どうしても描きたかったシーンがあったから。
徹夜でしょうか?体調崩さないよう気をつけて下さいね^^;
あの作品が小説に…!現在やや興奮気味な僕ですw嬉しいですねw詩と小説の二つで描いて頂けるとは…w贅沢させて頂きます♪
全5回なんて…美味しすぎです(>□<;)すいません…テンションがあがりすぎてしまいました…(汗)
おお~!!!ついに小説になったのですね~~^^
ココでの感想などは控えたほうがいいのかな? 気にしなくていいのかな? どうなんでしょう^^;
わからないので、好きな所を一つだけ書きます^^
最初の宵の明星の所、とっても良かったです~!!
「これかぁ~」と納得しました^^  
サラリーマンねぇー どう展開していくのかなぁー 楽しみだぁーん
夏樹さん・ありがとう。もうほとんど寝れないナチュラルハイです^^;ぶっ通しで書いて、ぶっとおしで推敲。我ながら驚いてます。喜んでもらえて書いてるかいもあります^^
nikoさん・もちろん感想どこででも気にしなくていいですよ^^ルールなんてないもんw 話がつながったようで説明を書き加えて(小説にして)よかったです。
マト・ありがとう、どんどん載せていきます^^

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