第1回 社会化

最初は猫達が警戒していたようです。

その中で子猫が近づいてきました。

すっかり慣れたようです。この後、中くらいの猫も少し近づき、少し離れた位置で座っていました。
犬は「噛む」「恐い」と思う人が日本には時々見られます。
しかし、そうさせているのは人間です。犬は、人間よりずっと「育てたように育ちます」。
つまり、素直な犬を攻撃的にさせるにはそれだけの原因があるのです。
その大きな原因の1つが社会化不足です。
生後1ヶ月くらいで親から離され、ペットショップの狭いケージに閉じ込められること。
実際は最低2ヶ月は子犬は親犬と過ごさなければ必要なことは学べないと言います。
そして、その後も他の犬はおろか人とも交流が少ない、日本は犬の行動は多く制限され、1日中繋がれっぱなしの犬までいます。
犬は成長がはやいです。体は1年で大人になります。
つまり、ペットショップで過ごす数ヶ月は、人間で言えば、幼児から中学生くらいまで他とほとんど接することなく引きこもっているのと同じことになるわけです。そのようにして育った人間の子供が、社会的に満足なコミュニケーションをはかれるようにはならないであろうことは考えただけで分かると思います。
しかし、日本は利益だけを優先し、ペットショップに対する規制も無きに等しい。
先進国で、動物に関する法律がここまで機能していないのは日本だけです。
犬が社会的に満足なコミュニケーションを図れないまま育つということ、それは、他の人間に会っても、同属の犬にあってもどうしていいか分からず、怯え、恐さのあまり攻撃する犬が出てくることになります。これが犬が攻撃的になる原因の1つです。
凪(なぎ)は捨てられた子犬でした。あとで話しますが、どうやら出所は近所のブリーダーのようだと分かりました。
最初は、どんな犬に会っても震え上がって歩けなくなっていましたし、ルーツが猟犬なので、他の生き物はとりあえず何でも追いかけて獲物だと認識してもおかしくない状態でした。実際、凪は狩りの名手です。その本能自体は強く残っています。しかし、今は、犬はおろか、猟犬の本能はあるままに、猫とも完全ではないにしろ、むやみに攻撃せぬよう、とりわけ小さいものには優しく接することが出来るようになっています。
人間の子供が、凪にまたがって乗っても、近くで棒を振り回しても動じません。
もちろん、その子供には注意しました。
「棒で叩いたらダメだよ。」
「叩かないよ。つつくだけ。」
「ダメ!」
その後しばらくして今度は、その子供がいなくなったと、保護者の人が探していました。
凪は、リードを離しても、傍から離れていなくなることはありません。
犬は2歳くらいの知能と言われていますが、社会化された犬は、人間の子供の一部よりずっと大人な行動がとれます。(ただ、「知能」は人間の子供の方が上なので、5歳の子供は、この会話のようなへりくつも言います。)
どこの家に上げても、人間の縄張りでトイレをすることはありません。
そんな凪ですが、別に特別に賢い犬ではありません。しかし、賢いと言われることが多いので、犬の専門書で凪の知能テストをしてみたのですが、普通より少し頭がいいという程度でした。
凪の賢いと言われる行動は頭の良さとは別物だと思います。それが社会化の成せるワザだと思うのです。
「社会化」というと難しいことに聴こえるかもしれませんが、簡単に言えば「慣れ」です。
小さいときからたくさん人間と触れ合わせる。たくさんの犬達と遊んでもらう。
いろんな場所に行く。そんな当たり前の経験を通して、犬も人間の子供同様に成長していく。
何が危なくて何がそうでないか。ここではどういう振る舞いをすればいいのか。
どういうことをしたら人や犬から怒られるか。犬は群れの動物、仲間はずれになることを嫌います。
だから一生懸命に仲間を観察して学習していく。リーダー(飼い主)の傍が一番安全だと学ぶ。基本的に順応性は高いのです。
凪に出会い、この一連のことを知ったときから、出来る限りの場所に凪を連れて行き、子供達の遊び相手として公園で遊んでもらい、また、犬を飼っている知人にお願いして小さい犬から順に接せさせ、猫がいたら猫とも、というように社会化を繰りかえしてきました。最初は他の犬に会うたびに震え上がっていた凪も、だんだん慣れ、なんとか訓練の土台を築くことが出来たのです。