大型犬の飼い主さんが止めて謝りましたが、話を聞けばまだ1歳だということで、1歳は体は大人に近くても、心理(行動様式)的に成犬に入るのは2歳から。凪も1歳の頃はずいぶんやんちゃだったものです。大型犬なので、まだ子供とはいえ迫力がありますが、犬の顔を見れば、喜んでじゃれついていることが良く分かる表情をしています。もともとそのドッグランは危険な犬・噛む犬は立ち入り禁止で、注意事項に書いてあり、凪も従業員に撫でられて確認されて入ったわけで、驚いた自分が不覚だったと思ったくらいで、全く怒ってはいません。
話していると、またその大型犬が近づき、また飛びついてきました。それを見た凪は、もう許せないとばかりに大型犬に飛びつき、牙をむき出してガウガウッと言いました。だけど、けっして噛みませんでした。凪が噛むのは他の犬の方から噛んできたときだけで、そこは元獣猟犬ジャックラッセルテリア、一瞬で攻撃に転じることが出来ます。社会性を学んでない犬と道ですれ違う際に1度そういうことがありました。普段の凪は見境なく他の犬に攻撃的になる犬ではありませんし、吠える犬は無視します。なので、凪がはっきりと牙をむいて本気で怒る顔を見たのは初めてでした。その後も、凪は、ドッグラン内で、大型犬との距離が近づくと、間に立ちはだかっては大型犬を追い払おうとうなりました。傍から見てもそう見えたのか「飼い主を護ろうとしているようですね」と言われました。
凪は、もともと気の強い犬ではありませんでした。拾った子犬の頃、他の犬に吠えられただけで歩けなくなり震えて座りこんでしまうため、犬のいるところで普通に散歩をするのが大変でした。小さい犬でもダメで、ミニチュアダックスに吠えられて、後ろに隠れたりしていたのです。また、母犬から早く離れていたせいで噛みの抑制もなっておらず、じゃれるだけで血がくらい手を噛んでくれていました。これではいけないと、他の犬に慣れるように静かな犬を選んで出来るだけ接触させ、噛みの抑制を教える日々でくたくたになっていたことを思い出します。しかし、今、大型犬に向かっていく凪には、その頃の臆病で抑制も効かない姿はみじんもありませんでした。
驚いてしまったのが不覚だったからと思い、その後、僕は凪からそっと離れると、大型犬の方に向かいました。人好きな大型犬は早速近寄ってきました。そして、「よしよし」と言いながらそっと大型犬の頭を撫でました。今度は、凪も遠くからじっと見ているだけで怒って走ってはきませんでした。危なくないと判断出来たようでした。
大型犬の4分の1くらいの凪。もし、噛まれたりしたら凪くらいのサイズだと、オオケガをしてしまうかもしれません。凪は、「ここはドッグランだから噛む犬は入れない」とかは分からない。ただ、僕が驚いてしまったため危険を感じて全身全霊で僕を護ろうとしたのです。凪みたいなチビが向かっていっても無理無理、むしろ危ないだけとかは人間の考えで、そんなことは凪は考えずにただ真っ直ぐに行動したのだと思います。もちろん、チビの凪にこういうことはしないで欲しいのですが、その気持ちには「ありがとう」と言いました。
つくづく動物は真っ直ぐな気持ちを持っていると思います。凪の寄せてくれる信頼と愛に負けぬよう、凪みたいに捨て身で全身全霊にはなれなくとも、そんな凪を敬愛し、これからも動物を護るために出来ることはやっていこうと心に誓った日でした。